あの時のあたしはどうかしてた。

 

アイツの言葉をいつものように受け流すことができなかった。

 

入院しているママの様子が優れない苛立ちも多分あったんだと思う。

 

実際、アイツは何も悪くない。

 

なのに・・・・気がつけばあたしは大声を出していた。

 

冷静になればなるほどあたしの口は止まることを知らなくて・・・・

 

きっと汚い言葉をアイツに浴びせたのかもしれない、それさえも数分前のことなのに――

 

「なーおっ!!!!こんなところでどうしたんだ!!ん?奈緒?」

 

ふいにかけられた言葉があたしを現実から引き戻す。

 

嗚呼・・・・あたしは何を考えていたんだろう・・・

 

きっと・・一番、考えちゃいけないコト・・・・

 

そう思いながら、声の主へと振り返る。

 

頭が痛い・・・・・

 

あたしの顔を見た途端、命は少しだけ不思議そうな顔をした。

 

それほど、あたしは酷い顔をしていただろうか・・・?

 

命が心配そうにあたしに近寄ってくる。

 

正直、うんざり。

 

あたしにかまわないで欲しい・・・・・

 

それでも、突き放すことが出来ないのはあたし自身の優しさなのだろうか――

 

解らない、ただ・・・・

 

「・・・・・・奈緒?」

 

あたしがぼんやりしてるもんだからアイツはより心配そうにあたしの名前を呼ぶ。

 

そんな時でもあたしの口から出るのは皮肉ばかり・・・

 

鴇羽だったら・・・命が喜ぶ言葉をちゃんと言えるのかもしれない。

 

「あーもぉ・・・・・ホント、うっとおしいわねぇ・・・・」

 

あ、また・・・・

 

そんな自分に苛立ってあたしは自らの手を壊れてしまいそうなくらい強く握る。

こんなことが言いたいわけじゃないのに・・・

 

「むぅー・・・奈緒はいつも私に意地悪だ・・・」

 

口を尖らせながら、アイツは明らかに不機嫌そうな声を上げる。

 

命には多分、何も伝わらない。

 

アイツは素直であたしが放った言葉をそのまま受け取ってしまうから。

 

それが悔しくてあたしは自らの地雷を踏む。

 

「あっそ、あんたに嫌われても別に何とも思わないわよ」と。

 

あたしの言葉に命は一瞬哀しそうな顔をした後、あたしに向かってこう、言うのだった。

 

「奈緒はわたしのことが嫌いか?」

 

・・・・・・・ワタシノコトガキライカ?

 

そんなことない・・・・・・

 

あたしがもう少し素直だったならすぐ、そう答えてた。

 

でも、あたしは素直じゃないから――

 

アイツの望む言葉なんて言えるはずもない。

 

そんな自分に嫌気がさす一方、あたしはそんなことを聞く命が嫌だった。

 

あたしに感情なんて要らない――

 

男どもと付き合うのだって実際、金目当てでしかなかった。

いつらなんてしょせん、クズでしかなかったから――

 

「っ・・・・やめてよ・・あたしは・・あんたなんか好きじゃないっ!!藤乃もあんたもどっか、おかしいんじゃないの!?はっ、誰かを好きだなんて馬鹿げてる・・本当に信じられるのは自分だけなのに!!

 

解る?あんたが好きな鴇羽だっていつかあんたを裏切る時がくるかもしれないじゃない!!あー・・・やだ、やだ。素直なあんたを見てると・・・はっきり言って吐き気がすんのよ!!どう?傷ついた?」

 

いつのもように意地悪い笑顔を命に向ける。

 

アイツは俯いたまま何も言わない。

 

吐き出した言葉がただ、痛い――

 

傷ついているのはあたしじゃなくて、命の方なのに――

 

誰かに泣きついてしまいたいほど切なかった。

 

嗚呼、こんなのただの八つ当たりだ・・・・

 

命は何も関係ないのに・・・・・

 

本当は羨ましかったのかもしれない。

 

あたしが捨ててしまったモノをアイツがさも当たり前のように持っていることが――

 

捨てたモノはもう、戻ってはこないのに――

 

苦しいほど解っていたのにどうして・・・

 

 

数分、経っただろうか・・・・命がゆっくりと顔を上げた。

 

その目に涙は無い。

 

そんな命の姿に安堵するあたしがいる・・・・

 

なんて、勝手なのだろう。

 

自己嫌悪で死んでしまいたくなる――

 

そんなあたしに真面目な顔をした命が小さく呟いた。

 

「嫌だ・・・」と。

 

命の言葉にあたしは目を見開いたまま、硬直してしまった。

 

あたしが黙っていると聞こえなかったと思ったのかアイツは大きな声ではっきりと言い切った。

 

「私は嫌だ」

 

「なっ!?あんた、ばっかじゃないの!?話、聞いてた!?」

 

正直、理解出来ない。

 

こんな簡単な言葉でさえ命は理解出来なくなったのだろうか・・・?

 

あたしが黙っていると命はあたしの腕を掴んだ。

 

「な、何すんのよ!?み、命っ!?」

 

驚いたあたしはアイツの名前を叫ぶ。

 

なのに、命ときたら・・・さっきと同じ言葉を繰り返すだけ。

 

「はぁ?あんた、馬鹿でしょ?ちょっと・・いたっ・・・」

 

強く掴まれた腕を乱暴に振ってみても、命はいっこうに放そうとしない。

 

「っ・・・嫌いだって言ったでしょ!?あたしなんかにかまわないでよ!!」

 

あたしがそう叫んだ瞬間、体のバランスが崩れ、あたしはなぜか命の腕の中にいた。

 

あたしはすぐに手を引っ張られたのだと理解する。

 

「み、命・・・・・・?」

 

「奈緒・・どうしてそんなに辛そうなんだ?」

 

見上げた先にあるのはいつになく、真剣な顔。

 

「なっ!?べ、別にそんなんじゃないわよ!!!」

 

言葉と裏腹にあたし自身、命に抱き締められてかっこ悪いったら、ありゃしない。

 

幸いなことにここは裏山で誰かに見られることはないのだが――

 

それでも、恥ずかしさで顔が紅くなる。

 

その様子に気がついていないのか、命はなおも恥ずかしい言葉をあたしに向ける。

 

 

「泣け・・・私はちゃんとここにいる。だから・・・・」

 

「っ・・・・・・・・」

 

言葉が出ない――

 

命の言葉があたしの感情を徐々に揺さ振っていく。

 

あと一押しで、あろうことかあたしは泣いてしまいそうだった。

 

深呼吸をし、落ち着かせようと努めるが・・・結果はもう見えている。


はぁ、仕方が無い・・・・・

 

「・・・・ホント、あんたは馬鹿なんだから・・・ちゃんと責任取ってよね・・・」

 

そう、呟いた後、あたしは命の腕の中で小さく震え出す。

 

その瞬間、あたしを抱き締める腕の力が強くなるのを感じ、あたしは体の全てを小さなあいつに預けるのだった。

 

心に刺さったトゲがいつか、消えることを祈って――― 

                                                                       Fin

うーん、Dark系を目指してみたんだけど・・・Darkだけには成らんかった・・・

てか、どうなのよ、これ・・・(苦笑)

無意味に長い・・・・・