冷たいの?

 

それとも・・・温かいの?

 

その感覚さえ、あたしは解らなくなっていた。

 

雨があたしの頬を流れ落ちる。

 

今、あたしを見たら泣いているように見えるのだろうか・・・・・

 

シャワーを浴びているかのようにあたしは上を向き、虚ろな目で濁った空を見つめる。

 

雨が目に入り、少しだけ沁みる。

 

「風邪引いたら・・・・あおいに怒られるの・・かな・・・」

 

ぼんやりとした思考の中、あたしは雨に打たれ続けた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・命・・・・」

 

「結城・・さん・・・・・?」

 

同時に発せられた音は、あたしの耳を通過しゆっくり消えていくのだった。

 

まるで、何も言わなかったかのように。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

振り返るとそこには菊川雪之があたしを心配そうに見ているのだった。

 

雨音がただ、五月蝿かった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

お互い、相手をただ、見つめるまま。

 

あたし自身、音さえ出すのも面倒で、数秒間、困り顔を見つめていた。

 

そんな中、先に折れたのは菊川だった。

 

傘も差さずにその場に立っているあたしにそっと近づき、「濡れちゃうから・・」と自分の傘に招き入れる。

 

そして、あたしをちらっと見た後、菊川は肩にかけていた茶色いバックから何かを取り出そうとしているのだった。

 

そう、バックから取り出されたのは黄緑色のタオルだった。

 

ぼんやりそれを眺めていると視線に気づいた菊川が顔を赤くしながら「珍しい色だよね・・」と言うのだった。

 

「・・・・・・別に・・・・・・・・・・・」

 

そっけない態度のあたしに菊川はそっとタオルを被せ、濡れすぎた髪を優しく拭くのだった。

 

始めは遠慮気味に拭いていたのに、あたしが抵抗しないと解ると菊川は嬉しそうに手を動かし続ける。

 

バックから取り出されたタオルはほんのり温かかった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「痛くない・・かな?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「結城・・・・さん?」

 

違う、泣いてなんか・・・・・・

 

ただ、誰かに拭いてもらうことなんて久しぶりだったから。

 

温もりなんてもう、無いと思っていたから。

 

思い出した感情にあたしは蓋をするのを忘れ、あたしはただ、震えていた。

 

声も出さず、静かに流れ落ちる涙は雨と混ざり、誰にも解らなくなる。

 

嗚咽すら雨音が消してくれる。

 

それでも、誤魔化せない相手が目の前にいるのは確かだった。

 

菊川はびしょ濡れのあたしをそっと抱き寄せ、タオルが被さったあたしの頭を優しく撫でる。

 

自分が濡れてしまうのなんて関係ないようだった。

 

すがり付いて泣くあたしの耳に雨音だけが聞こえる。

 

いつの間にか雨音が少しだけ強くなっていた。

 

 

To be continued.

ゆきのん、登場www