同級生に呼び出され、私は肌寒い屋上にいた。
理由は解らない、けど・・・・・大切な用事であることは何となく伝わってくる。
そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「た、妙ちゃん・・・これ」
恥ずかしげに発せられた声と同時に真っ赤な箱が私の前に突き出される。
見ると両手が震え、カタカタと音を奏でている。
疑問視を浮かべ、数秒、考えてみるも、実際、今日が何の日であるのかさっぱり、解らないのである。
「九ちゃん?」
目線を上げ、すまなそうに彼女を見るが、彼女は私と目があった瞬間、顔を背けるのだった。
それでも、照れてるんだってことくらいは解る。
だって、耳が真っ赤だったから。
そんな様子を愛おしいなと思っていると、彼女がゆっくりと口を開く。
ちゃんと聞いていないと聞き漏らしてしまいそうになるくらい小さい。
尚且つ、視線は逸らされたまま。
「きょ、今日はバ、バレンタイン・・・だから・・・」
ああ、だから・・・・・・・
そこで、納得がいく。
学校に甘い空気が流れていたのはそのせいだったのか。
映画のカップルデーだとばかり思ってた。
ほら、カップルだと安くなるっていうあれよ、あれ。
なんてツッコミ、勿論、口には出さない。
「ああ、今日はバレンタインなのね・・・ありがとう、九ちゃん」
自分の勘違いに苦笑しつつ、ようやく、私は赤い箱を受け取る。
見た目通り、少し重たいなんて思いながら、ふと気がつく。
自分は何も用意していない、と。
申し訳なく彼女を見ると、そこには目が二つ。
いつの間にか、彼女は視線を元に戻し、私を嬉しそうに見ているのだった。
満足げな彼女と違い、私は酷く、気まずかった。
言わなければいけないと思いつつ、躊躇する自分がいる。
何も用意していないと彼女に告げるのは一瞬で、言ってしまえばもう、楽なのに。
どう、言えば傷つけないのだろうか・・・・・・
なんて、思案していると「いいよ、そんなの。渡せるだけで嬉しいから」とはにかむような笑顔で彼女ははっきりこう、言うのだった。
「で、でも・・・・」
その口調に偽りなど無かった。
解ってる、でも・・・・・・・・
彼女のために何かしてあげたかった。
今からでも・・・間に合う・・・?
私の様子に何か感じ取ったらしく、彼女は顎に手をあて、唸り始める。
少しだけその顔は険しかったが、すぐさま、笑顔になり、「んー・・妙ちゃん、飴、なめる?」と一言。
いったい、何のことだろうか?と思いながら断る理由も無いので頷くと、彼女はポケットから飴を取り出し、私の口にそっと入れるのだった。
瞬時に飴独自の甘さが広がる。
懐かしい味がする・・・ような気がする。
「どう?美味しい?」
おずおずと聞く彼女に私は正直な感想を述べる。
「美味しい・・・けど・・・」
結局、私の中で何も解決していない。
もやもやした思いが私から笑顔を奪う。
手渡されたモノを両手でぎゅっと抱え込んだ。
目線は勿論、下。
何故って・・・・申し訳なくて、彼女の姿を見れなかったから。
彼女は黙ったままだったが、やがて短い溜息をつき、私の名を優しく呼ぶのだった。
私は数秒後、おもむろに顔を上げる。
心は晴れてない、けれども、彼女を無視するわけにもいかない。
すると、目の前に彼女の顔が。
驚いて、咄嗟に下がろうとした私を彼女は両手で掴み、強引に唇を重ねる。
初めてされたキスより、少しだけ長く、そして、甘い。
「なっ!?きゅ、九ちゃん!?」
呼吸を乱しながら、恥ずかしげに叫ぶ。
死んでしまいそうなくらい、心臓が痛いし顔が熱い。
機械だったら、ショートして煙なんか出てるころだ、多分。
私は睨み付けるように彼女を見ると、悪戯を成功させた子供のようにしてやったりな顔をしているのだった。
そう、私から奪った黄金糖を舌先に乗せながら。
それを見た途端、私の温度が急激に上がる。
おさまりかけた心臓が再び、パニックを起こす。
胸を押さえ、落ち着けと呟くも乱された心音は不規則なリズムを刻み続けるのだった。
胸の動悸はしばらく、戻りそうにない。
Fin
んー・・・解りにくいのですが・・・「これ、貰ったからいいよ」という九ちゃんの男気を書きたかったのですが・・・・どーにも(汗)
勝手に色々、捏造してるし・・・(滝汗)